神戸地方裁判所 平成6年(わ)337号 判決
国籍
大韓民国(慶尚南道義昌郡鎭北面鼎里三三番地)
住居
兵庫県姫路市西新在家二丁目一一番二二号
広告代理業
長谷川洋司こと黄東性
一九三〇年九月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤洋志及び弁護人谷宜憲各出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金二〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、兵庫県姫路市西新在家二丁目一一番二二号に居住し、「大新社」の名称で広告代理業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、
第一 平成二年分の総所得金額が一億九九三八万九八六六円で、これに対する所得税額が九五二一万九五〇〇円であるのに、売上の一部を除外するなどして、その所得の一部を秘匿した上、同三年三月一五日、兵庫県姫路市北条字中道二五〇所在の所轄姫路税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が七四四八万七一九〇円で、これに対する所得税額が三二七六万八五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税六二四五万一〇〇〇円を免れ
第二 同三年分の総所得金額が一億六〇八六万四一〇七円で、これに対する所得税額が七五七七万七二〇〇円であるのに、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同四年三月一六日、前記姫路税務署において、同税務署長に対し、同三年分の総所得金額が七四六〇万九七一七円で、これに対する所得税額が三二六四万九七〇〇円(ただし、申告書は三二四九万九七〇〇円と誤って記載)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の所得税四三一二万七五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
以下において、検甲一・二号等は、公判調書中の証拠等関係カード検察官請求番号1・2等の証拠を示す。
一 証明書三通(検甲一・二・三号)
一 脱税額計算書二通(検甲四・五号)
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面(検甲六号)
一 査察官調査書一四通(検甲八ないし二一号)
一 恒藤泰造の質問てん末書二通(検甲二二・二三号)
一 金岡龍男の質問てん末書三通(検甲二四・二五・二六号)
一 福本雄三の質問てん末書(検甲二七号)
一 被告人の質問てん末書一六通(検甲二八ないし四三号)及び検察官調書(検甲四四号)
一 被告人の公判供述
(法令の適用)
罰条 所得税法二三八条一項・二項
刑種の選択 懲役刑及び罰金刑選択
併合罪の処理 刑法四五条前段・四七条本文・一〇条・四八条二項(懲役刑につき、犯情の重い判示第一の罪の刑に併合罪加重し、罰金刑につき、各罪所定の罰金額を合算する。)
労役場留置 刑法一八条
執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑について)
(量刑の事情)
本件は、売上の一部を除外するなどの不正の行為により、二年間に合計一億五〇〇万円余の所得税を脱税した所得税法違反の事案である。
脱税額が多額であるばかりか、脱税率も約六二パーセントとかなり高率であること、しかも自己の不正の発覚を免れるため、取引印刷業者などに内容虚偽の受注書などを作成させ、発覚後もしばらくの間は査察官に虚偽の供述をさせるなどしたことに照らすと、その犯情は軽視することができない。そもそも脱税は国家の課税権を侵害し、ひいては国の財政基盤を危うくする行為であるばかりか、国家に対する詐欺罪の実質があるとも言え、自己の経営基盤を強化し、自己や従業員の生活の安定を計ったものではあっても、競争社会の公平の原則にも反するもので、被告人の行為は強く非難すべきである。
しかし、査察の比較的早い段階から事実を素直に認め、修正申告を済ませ、本税・重加算税・延滞税などの国税及び地方税のすべてを支払ったこと、従来のどんぶり勘定的な経理を改め、パソコンを導入したガラス張りの経理に変え、また税理士の更迭もおこない、再犯防止に努めていること、これまでに前科はなく、本件を十分反省していることなど、被告人のために酌むべき事情を含め、諸般の情状を斟酌すると、今回は懲役刑について刑の執行を猶予するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中明生)